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『第三世界の長井』 宇宙人 (1)


宇宙人、その謎めいた出自

統一感のない6人

 現時点で登場している宇宙人は6名である。簡単に表にした。

必殺技状態
飛ビ跳ネサセ星人「ピョン。」[1-50]
相手を飛び跳ねさせる[1-50]
【生存】
歩み去る[1-58]
爆破星人「ワカリマシタ。」[1-113]
爆発を起こす[1-114]
【死亡】
長井の攻撃で爆破消失[1-118]
クッ付カセル星人「エレクトリカル・ダーク…」(後半不明)[1-153]
能力不明
【再起不能?】
帽子の少年により必殺技を封印され、警察から逃走中[2-102]
ラーメン星人「…実写版デビルマン。」[2-49]
麺を物理法則を無視して操る[2-49]
【再起不能?】
自我を取り戻して帰宅[2-60]
火山噴火星人「わしはゆたかな大地になる。」[2-93]
火山を活性化する[2-106]
【死亡】
帽子の少年により消失[2-95]
衝撃星人「クールジャパン。」[2-132]
衝撃波を発する[2-132]
【生存】
逃亡[2-146]

 一覧にするまでもないかもしれないが、規則性が低いのがこの6人の特徴であり、『第三世界の長井』の物語としての特殊な構造である。
 いわゆる「バトルもの」[1-89]であれば、敵にはおおむね一定する規則性があるものだが(敵は徐々に強くなる、敵の能力は一様のルールに沿っている、同一のルーツやバリエーション性のある外見を持っている、等)この宇宙人6名には統一して敷衍できるものがくみ取りにくい。
 何の説明もなくフェードアウトした飛ビ跳ネサセ星人がいる一方、クッ付カセル星人はたびたび(ニュース情報に)登場する。人間の姿をした者もいればミュータント状の者、画風の違う者までもいる。後で詳述するがアイデンティティや目的もばらばらである。

 この無秩序の単純な理由として、「Eアンカーで決められたから」と答える事は簡単だろうが、本当にそうだろうか?
 奇妙な事だが、現在明らかになっているEアンカーの設定54点のうち、宇宙人に関連するものはわずか2点なのだ。

設定144ラーメン星人、必殺技は「実写版デビルマン」
(なすびくん)[2-66]
設定165火山噴火星人、必殺技は「わしはゆたかな大地になる」
(よしたけくん)[2-106]

 しかもどちらも宇宙人本体ではなく(たとえば「長井の敵はラーメン星人」といった根本的なものではなく)必殺技に関する記述でしかない。
 こうした宇宙人とEアンカーとの関連性の薄さはそのまま、宇宙人はEアンカーの「設定」と無関係なのではないかという疑問につながる。

※これは脇道だが、もう一つ奇妙な点は、この2つの設定が同じ文章フォーマットに則っていることだ。どちらも「××星人、必殺技は『××』」という書き方である。同じ必殺技に関する設定でも「設定145 ヒーローの必殺技はストロング壁ハメ(虎仙人くん)」[1-124]などは、カギ括弧の使い方や体言止めの文法が明らかに異なっている。

Eアンカーと宇宙人

 宇宙人がEアンカーと無関係に存在する可能性を追ってみよう。
 むろん何の超常の力もなく彼ら宇宙人が存在するとは考えにくいが、帽子の少年も「みんなが歪んでくのはともかくあんな力はどっから…」[2-123]とEアンカーの影響に疑問を持っている。彼は読者より多くの情報を持っているはずだが、彼の知る限りでもEアンカーには宇宙人の強力な能力が設定されていないし、設定されているとも考えにくいらしい。
 これと同じ視点を持つカンジの言葉でも、Eアンカーの設定を否定するらしき表現がある。

「端的に言うなら宇宙人達はあるいは… / 音那さんが長井とそれを中心とした関連アンカーを高次階梯領域への直接介入によって… / 包括的処理をする為に形成されたプログラムから創られた物語のキャストなのかもしれません。」[2-99]
 この文章は主語と目的語の関係が複雑なために解釈が難しいが、少なくとも宇宙人がどのように生じたか、推測しかできていないのが分かるだろう。仮に彼が知るEアンカーに「長井は悪の侵略宇宙人と戦う」といった記述があったなら、このカンジの仮説/疑問は無かったはずである(別の問題が生まれたとしても)。

 この視点とはまた別にEアンカーと宇宙人の関係を考えるなら、「一般人の認識」をひとつの鍵にできるだろう。
 Eアンカーによって発生した異常は、基本的には一般人には認識できない[2-108]。たとえ長井の姿が落書き同然でも、そう設定された[1-69]ならそれが自然な長井の姿となり、周囲には異常とされない[1-38]。博士の頭のツノは「この辺じゃ『トゲ』で通じる有名人だしね。」「どの街にも一人ぐらいああいう変なのいるよね。」とこともなげに言われ、帽子の少年は「あんな立派なトゲ生やした奴いねーよ。」と吐き捨てる[1-39]。では宇宙人はどうか?
 この問題に踏み込むより先に、我々はこのルールの適用範囲をあらかじめ知っておく必要がある。「設定151 主人公は立派な大人になりたい」[2-66]という設定があり、現実「イツカきっと立派な大人になる。」と叫んだ[2-61]長井には「裸で逃げながら急になんだその前向きな姿勢は。」[2-161]と文句がつけられている。これは前記の〈Eアンカーで決められた異常は無視される〉ルールに反するようだが、設定151にあるのは「主人公は立派な大人になりたい」という一点であり、裸で逃げながらそれを言うのは範囲外という事に注意したい。Eアンカーから〈派生した結果〉に新たな異常があれば認識される、と言い換えられるだろう。
 これは仮に宇宙人がEアンカーによって設定されたとしても、一般人にも異常として認識され得るということでもある。第1話に登場したUFOが通行人達にひどく驚かれていているが[1-32,33]、たとえばEアンカーには「宇宙人の侵略が始まる」と書いてあっただけで、UFOは侵略の手段として〈派生した結果〉だから認識され驚かれた……そういう事かもしれず、Eアンカーに記述がない証拠にはならないのだ。
 逆説的に〈一般人があからさまな異常に驚いていない〉とき、それはEアンカーによって設定された可能性が高いとも言える。それを意識して次の一覧を見てほしい。

周囲の反応
UFO激しい動揺を生み[1-33]、一方「ムチャクチャ嘘くさ」いとも評された[1-34]
飛ビ跳ネサセ星人
爆破星人必殺技は爆破騒ぎとなったが、本体は警官に無害な着ぐるみの類と判断された[1-111]
クッ付カセル星人コスプレめいた姿[1-139]と大声が周囲の注目を呼び、警官に職務質問された(宇宙人である旨には冷静な対応)[1-150]
ラーメン星人「中学生ぐらいの女」と見られ[2-47]、必殺技が激しく驚かれた[2-52]
火山噴火星人必殺技は大ニュースとなった[2-106]。本体は長井らしか見ていない。
衝撃星人周囲が怪訝な顔で振り返る[2-127]が、ヒーローショーの一部と誤解された[2-129]。必殺技はショーの範疇では無いと騒ぎになった[2-137]

 飛ビ跳ネサセ星人のみ、一般人の目に触れていないため空欄である。
 〈一般人があからさまな異常に驚いていない〉ケースは確かにある。しかし仮装と判断された爆破星人・衝撃星人は数に入らないだろう。同じようにラーメン星人もありふれた姿であった──異常ですらなかった──ために、このケースからは除外される。唯一〈一般人があからさまな異常に驚いていない〉とかろうじて言えるのは、宇宙人だと主張しても不審者扱いしかされなかったクッ付カセル星人の例だが、単に妄想や狂言の類と思われただけかもしれず、背景にEアンカーの存在を認めるには至らないだろう。
 結論として、宇宙人がEアンカーによって登場したとする証拠は何も無いと言わざるを得ない。帽子の少年等の発言から、むしろEアンカー以外の要素が深く関わっていると考えるべきだろう。

侵略者?

ばらばらな目的

 「現段階では(※長井と宇宙人と)双方の人類暫定認識的正悪性の比率が我々には判断できません。 / 我々は長井の…というより博士の言い分の一部に関する情報しかいただいておりませんので…」[2-99] カンジの発言をかみ砕いて言うなら「今はまだ長井と宇宙人のどちらが人類にとって正義/悪となるか判断しかねる」という事だろう。侵略宇宙人が正義かもしれないというのは、なぜなら宇宙人を悪の侵略者と呼んでいるのは博士のみだからである。
 博士の言動を100%正しいと信じる理由は我々読者にとってもないだろう。ここで、宇宙人が本当に侵略者なのか改めて確認しておきたい。

飛ビ跳ネサセ星人の目的

 まず飛ビ跳ネサセ星人だが、そもそも「ピョン」程度の擬音(?)しか発しておらず、そこから意図を読み取るのは難しい。
 もし登場時に現われた「カムヒア! 飛ビ跳ネサセ星人の唄」[1-49]が彼の心情に沿ったものだと仮定するなら、「さあ飛び跳ねろよ 理由なんかいらない」という目的(とも呼べないが)になるだろうか。「二番 てめえ等なんにもわかってねえ もうだめじゃ もうだめじゃ」とある事から、周囲に理解されない彼なりの理由があるのかもしれないが、これが判断の限界だろうし、意図を汲み取るのも難しい。

 博士の発言によれば、「わいの長井よ。飛ビ跳ネサセエナジー全開で全人類を根気よく飛び跳ねさせて、そんな事をお前一人が命がけで阻止して…」[1-44]「(…)相手がどんなつまらん宇宙人であれ(…)」[1-45]とある。つまり飛ビ跳ネサセ星人の目的は全人類を飛び跳ねさせる事とされ、それは博士ですらつまらない目的だと考えているようだ。しかし実際のところ飛ビ跳ネサセ星人は全人類どころか長井以外の誰も飛び跳ねさせられておらず(周囲にいた4名は無事だった。また去って行ったその後の世間でも何のニュース沙汰にもなっていない)、この博士の発言も信ぴょう性が薄い。

 その行動から最低限言えるのは「長井を飛び跳ねさせる」事が目的(あるいはその一部)だったとは言えるのかもしれない。理解に苦しむ所ではある。

爆破星人の目的

 次に登場した爆破星人も同様に意図が汲みにくいが、行動から察するにやはり長井の爆破が目的/目的の一部ではあるだろう(それ以前に無関係な場所を爆破していた様子がある[1-109等]が、それ自体が目的だったのかは描写がないため判断し難い)。
 飛ビ跳ネサセ星人と近いように見えるかもしれないが、爆破星人の場合破壊力があり「長井に致命的なダメージを与える」事になる点で、飛ビ跳ネサセ星人とは大きな違いがある。

クッ付カセル星人の目的

 クッ付カセル星人はこれまでの例と反対に多弁な宇宙人だ。「実のとこくっ付くかどうかとかって事自体には全然興味ねえ。」[1-139]という点は、前二者とは異なるかもしれない。
 その発言を追うと、「エヘヘ… / ヒーローはどこかな〜?」[1-139]「ヒーローはどこなんだよ… / なんなんだよマジで…」[1-145]「ん〜? おめーだなヒーローは。」[1-146]と、異様に「ヒーロー」探しに執着している事が分かる。「待てよ俺ぁただヒーローを…」[1-151]と言ったその先は不明だが、逃げながら「俺は敵と戦いてえだけなんだああ。」[2-22]とも叫んでおり、敵=ヒーローとの戦いを望んではいるのだろう。
 しかし少々顔がいい程度の単なる高校生の張飛(新井)に「ん〜? おめーだなヒーローは。 / なあもうそうでしょう? お?」[1-146]と絡む様子からは、彼が「ヒーロー」の外見に関する情報を持っていない事がうかがえるだろう。しかも「ヒーロー」であれば誰でもいいといった投げやりさも感じられる。Eアンカーにおける明確な「ヒーロー」──つまり長井には執着していないのだ。これは長井と周囲を明快に区別していた前二者との大きな違いだ。
 一方で「邪魔すんなよ 俺は今は騒ぎを大きくする気はねえんだよ。」[1-151]と言っている以上、ヒーロー以外の相手に関わるつもりがないとも受け取れる。
 「騒ぎを大きくする気はねえ」と言う割にその直前にはやたら大声で自分をアピールしてもいるのだが、あるいは騒げばヒーローが現われるという目論見があったのかもしれない(実際、警察はすぐに駆けつけたのだし普通に考えてヒーローは長井のように怯えて隠れたりしないものだ)。

 むしろここで奇妙なのは、ヒーローがいない事を「ヒーローはどこなんだよ… / なんなんだよマジで…」[1-145]と急速に落胆/困惑している事だ。これはクッ付カセル星人がまさにその場にヒーローがいるという(正しい)確信をもってやって来たことになる(あてもなく探していればこれ以前にもう検挙されてもいたであろう)。
 これは飛ビ跳ネサセ星人・爆破星人がほぼ正確に長井の前に現われた事とも類似しているが、クッ付カセル星人が非常に曖昧なヒーロー像しか持っていなかったにも関わらずその位置だけは知っていたというのは特別な矛盾と言えるだろう。たとえおおまかに「だいたいこの辺り」というレベルで知ったとしてもである。
 この矛盾の解決として、クッ付カセル星人の行動は、誰かの曖昧な指示や伝聞をもとにしていると考えられるのではないか。突飛な解釈と思われるかもしれないが、(後述になるが)他の宇宙人の行動にも本人以外の関与が認められる例があるのだ。

ラーメン星人の目的

 ラーメン星人は「…宇宙人でも何でもねえだろもうこれ。 /…/ …あの制服って近所の中学のじゃねえか?」[2-42]と言われたように、単なる女子中学生の外見をしている。のみならず、メルカバーの聖杯(ドンブリ)を失ったとたん憑き物が落ちたようになり「早く帰らないとしかられるし…」[2-60]と家庭に帰ってしまった。つまり、本来彼女は宇宙人どころか単なる人間であり、それが歪んだ状態が「ラーメン星人」なのだ。
 そしてこれは、他の宇宙人も同様に「歪んだだけの人間」である可能性を示すものでもある。雑な変装やコスプレ姿に見える前三者は特に、元は単なる人間だったと言われても不思議はないだろう。特異な姿をした火山噴火星人・衝撃星人にしても長井や博士の例を見ればアンカーに歪められてそうなったとしてもおかしくはない。

 もとの宇宙人の目的に話を戻す。彼女は「人類の行く末を決定付ける戦いで(…)」[2-47]という決意をもって長井の前に現われた(やはり正確に長井のいる場所である)。
 彼女の相手は厳密には長井ではない。「音速の長井よ お前のその仮の姿には用はない。 / 早くあるべき姿となれ。 / それでなくてはダァトよりの神意に従えぬ。」[2-44]と言う通り、スーパーヒーロー姿に変身した長井でなければならなかった。ここには「ヒーロー」を探していたクッ付カセル星人との相似があるだろう。

 その変身した長井に何の用があったのか? 読者は彼女が長井を逆さ吊りにした事は知っているが、その意図はいささか分かりにくい。「さあ摂理に従い虚無へと帰るがいい 音速の長井よ。 / この場にて今ある生を全うせよ。」[2-47]と長井を殺すかのように言ったかと思えば、帽子の少年には「奴を殺すのではないがこれから起こる事… / お前は見てはならぬ。」[2-54]とも言っている。しかしそれは「永遠の別離わかれ[2-54]であり、「この場で奴の生を見届けたいならば(…)」[2-56]とやはり死を暗示してもいるのだ。

 不可解なようだが、その解は「殺すのではない。神のものを神に返すのだ。」[2-52]というラーメン星人の言葉にあるかもしれない。ここで言う「神のものを神に返す」が「殺す」の言い換えでしかないのか、それとも長井の授かった能力(変身など)を無効化する事か二つの解釈がありえるが、後者はやや疑わしい。というのも、ラーメン星人が「神のものを神に返す」ために行なった行動はやはり「実写版デビルマン」で、これに長井の能力を云々する効果があるとは考えにくいからだ。この時、実写版デビルマンの麺は中途で制御を失いつつ長井の胸・腹にぶつかっている[2-58]。もしラーメン星人の失敗がなければ硬化した麺が長井の臓器を貫いていたのは疑い様がない。
 長井を殺害するならばなぜ「殺すのではない」「神のものを神に返す」と表現するのか? ここで先のラーメン星人のベースが人間だという件に戻るが、彼女は良く言えば夢見がちな単なる女子中学生であり、その彼女にとって「神意」と言えども誰かを殺害するのがメンタルに厳しいのは想像に難くない(彼女の中のストーリーでも皇女ヴェーレ=彼女自身はむやみな殺人を犯すキャラクターではあるまい)。そこで大義名分としての「神のものを神に返す」という表現が選ばれ、自身のヒロイズムを満足させつつ行動の責任をダァトという想像上の神意に被せ、なおかつ殺人ではないと自分を騙しているのだろう。
 それを理解した帽子の少年はすかさず「殺すんだろ?」と馬鹿にした表情でからかっている[2-52]「人間なんてどれだけ殺したか桁数もわかんねえよ。」[2-54]という少年にとってはラーメン星人のレトリックが馬鹿らしかったのだろう。

 長井を殺すに足る理由として、ラーメン星人は「偽りの王… / 偽りの救済者… / お前に世界を統べる資格などない。」[2-41,42]と述べている。この言葉はずばり長井と世界の関係について正鵠を射ているように見えるが、たまたまラーメン星人の趣味に合致しただけのたわごととも考えられる。いずれにせよ、ラーメン星人は世界の正しい秩序を取り戻すため長井を殺しに来たのだ。その正否は現時点では分からないが、なぜラーメン星人がこの思考に至ったかは注目すべきだろう。
 メルカバーの聖杯(ドンブリ)を失い単なる女子中学生となった状態の彼女は「別にあたしこんな事したくなかったし… / で…でも神意だからしかたないし…」[2-60]と、やはり神意の要求を認めている。してみれば、ラーメン星人にもやはり指示をする他者がいたと言えるだろう。それが真実ダァトという神の啓示の形をとったのか、あるいは何らかの指示を彼女が勝手に「ダァトの神意」と解釈したのかまでは分からないが。

火山噴火星人の目的

 最も謎めいているのが火山噴火星人かもしれない。単純に言って、わざわざ長井の前で長井に分からない形でメキシコの火山を噴火させる事に意味が見出せないからだ。

 長井を害するなら長井を火山までおびき寄せる必要があるだろう。長井に力のアピールなり脅迫なりしたいなら噴火の様を見せねばならない。そもそもなぜ100以上の活火山をもつ日本ではなくわざわざメキシコなのか(火山噴火星人が噴火させたポポカテペトル火山は実在の活火山で、付近はUFOの目撃情報が多数あるとされるが、そこが重要なのだろうか?)。

 博士は火山噴火星人の目的を「奴は同じ種族同士で殺し合う愚劣な人類を粛清しようというのだよ。」[2-82]と言うが、いかにももっともらしい一方、長井の前に現われる必然性がまったくない事に変わりはない。
 確かに「長井の物語に組みこまれる」という状態はあり(帽子の少年は望む望まないに関わらず自然に長井と出会うようになってしまった[2-30])、火山噴火星人の状態もその一例なのかもしれない。しかし火山噴火星人がしたように、あえて挑発的に長井に関わる理由はないはずである(どころか、その結果火山噴火星人は帽子の少年に消去される憂き目にもあっている)。
 ここに至っては(理屈に合わなくとも)「長井の前で能力を使うこと」それ自体が目的か、あるいは能力の形態にかかわらずとにかく長井と戦う必要があったと考えるほかないのである。

衝撃星人の目的

 衝撃星人の目的はストレートに自身の言葉で語られている。「とにかく今ここで人類の未来を賭けて早く次の職探さないと 親バレ前に… / じゃなかった殺し合いだ殺し合いだ。」[2-128] 殺し合いの相手はむろん長井である。「あ…関係ない奴どっか行って、 / 死ぬし。」[2-129]と一応他人を巻き込まない配慮すら見せている。
 長井を殺す理由も明確だ。「あと、ちゃんと悪を滅ぼしたし当然誉めてくれ。 / これで…これでボンバーが世界の王なわけ? トメ子さん。」[2-142]と言う通りなら、長井という悪を滅ぼし世界の王となるのが彼の目的だろう(事実そうなるのかは分からないが)。

 ここで重要な新人物として「トメ子さん」という名前が現われている。
 「ありがとートメ子さん、ボンバーを導いてくれて。 / ちょっとだけ疑ってたボンバーを叱ってくれ、無論優しく。」[2-142]とも衝撃星人は言う。これまでにも宇宙人に指示する他者の姿が見え隠れしていたが、衝撃星人の場合はっきりと「トメ子さん」という人物が指導していたようだ。
 「ボンバー マジスゲエ、 / まさかこれ程とは…」[2-142]と自身の能力に驚く衝撃星人の姿からは、トメ子さんによる指導がごく最近のことで、それもろくに実践経験を積んでいないことがうかがえる。

 はたしてトメ子さんとは何者なのだろうか? いかにも偽名めいているが、ともかく男性に厳しく女性に弱い衝撃星人が優しく叱ってほしいと言う以上、女性なのだろう。劇中には音那を筆頭にそれらしきキャラクターもいるが、現時点での決めつけは時期尚早だ。まだ未登場の女性キャラクターかもしれないし、それどころか女性を装った男性かもしれない(たとえば女性の写真と指示書が衝撃星人に送られていたとすればどうだろう)。

侵略しない侵略者

 ここまでの情報を表にして整理しよう。
(※公平を期して言うなら、このサイトの読者は「都合の良い箇条書き」のトリックに留意する必要がある)

目的指示した他者長井の位置情報
飛ビ跳ネサセ星人長井を飛び跳ねさせる?
爆破星人長井(および周囲?)を爆破する?
クッ付カセル星人「ヒーロー」と戦う正体不明
ラーメン星人世界正義のため、変身した長井を殺すダァトの神意
火山噴火星人長井の前で能力を使う/長井と戦う?
衝撃星人世界の王になるため、長井を殺すトメ子さん

 彼らの目的が地球侵略にない事はもはや明らかだ。
 むしろほぼ共通して長井個人に害意を持っているか、少なくとも長井と正面から対峙する意志があると言っていいだろう。そして彼らの全員が長井のいる正確な位置を知り、積極的にその場所に現われている。これらの行動は、別の何者かが指令した結果と思われる例が半数である。

 これらの点において、博士の「現代科学では奴等の侵略を防げず40億人死ぬ。」[1-20]「すでに我が地球には飛ビ跳ネサセ星人の他にも様々な宇宙人が密かに入りこんでいたのだよ。 / そして奴等は地球侵略の隙をうかがっていて(…)」[1-83]といった主張はまったくの間違いか、あるいは大きな嘘だと言えるだろう。
 そもそも「奴等は宇宙人なのだよ。」[1-22]という博士の根本的な主張にも怪しい所がある。彼ら「宇宙人」が自分を何者と言っているか見てみよう。

自称名自己認識
飛ビ跳ネサセ星人
爆破星人バクハセイジン[1-100]
クッ付カセル星人侵略に来た宇宙人[1-151,153]
ラーメン星人ヴェーレ・アク・リーベル・ロクェレ[2-42]クリフォトの闇の紅の皇女、ダァトよりの神意に選ばれし者[2-42]
火山噴火星人版権的にもセーフな男[2-93]
衝撃星人ボンバー[2-128]人類を先駆けるミュータント[2-128]

 このように宇宙人と自称する者は2名にすぎず、逆に地球人(に属する)と自認している者も2名(火山噴火星人も入れるなら3名)いるのである。
 この問題が複雑なのは、それでも2名は宇宙人だと自認しているという点だろう。つまり博士の馬鹿馬鹿しいような主張も一部は正しい可能性を残しているのだ。


コラム:ヴェーレ(真実)

 ラーメン星人が本名(?)と主張する「クリフォトの闇の紅の皇女、ダァトよりの神意に選ばれし者。ヴェーレ・アク・リーベル・ロクェレ」[2-42]。これらには一応の語源が存在する。
 「クリフォト」は神秘思想カバラにおける概念で、単純に言えば「悪」を象徴する。おそらく「クリフォトの闇の紅の皇女」と「の」が三連続して装飾過多に見える表現も、実際は「クリフォトの闇にして紅の皇女」という意味合いで、必ずしもおかしな表現ではないのだろう。
 「ダァト」も同じくカバラでは「知識」あるいは「神意」を意味する。オカルトめいたサブカルチャーに傾倒すればカバラは必ず通る道と言ってよく、ラーメン星人の普段の趣味が透けて見える言語チョイスと言えるだろう。
 「ヴェーレ・アク・リーベル・ロクェレ」とはラテン語の格言で、「Vere ac libere loquere」即ち「正しく自由に語れ」という意味である。ヴェーレvereとは「真実」「事実」「正しい事」といった意味で、ラーメン星人の設定では彼女は「真実」の名を持つ皇女という事になる。

 また彼女が持つドンブリこと「メルカバーの聖杯」にも由来がある。「聖杯」は一般名詞的な意味も持つが、キリスト教文化でイエスの血を受けた聖遺物、神秘の力を持つ伝説上の存在ともされる。そしてそのキリスト教発祥の言語であるヘブライ語で「メルカバー」は「戦車」を意味し(現代の軍事で言う戦車ではなく騎馬戦車チャリオットなのは言うまでもないが、イスラエルにはこれを語源とする装甲戦闘車両タンク「メルカバ」も存在する)、聖書(エゼキエル書)で神秘的に言及されたことからカバラにおいても瞑想と神秘体験を指す。

 果てしなくどうでもいいような気もするが、ラーメン星人の使う固有名詞が適当にでっちあげたランダムな文字列ではなく、彼女なりに事典であれオカルト本であれ自分で調べて見つけた語句だと思うと、彼女を見る目もまたほほえましく変わってくるのではないだろうか。