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『第三世界の長井』 音那、うるる


悪魔と呼ばれた女「音那」

音那は何を望んだか?

 音那には謎が多い。と言うよりは、情報が少ないと言う方が適切か。帽子の少年や長井ら主要メンバーと比べると格段に出番が少なく、またセリフも短いので彼女について分かる事はあまり多くない。しぜん類推が多くなってしまう事は容赦をいただきたい。
 はっきりとしているのは彼女がEアンカーを使って現実の設定を書き換えていることだ。それは「とりあえず… / これ(※便箋)は本物のEアンカーらしくて… / 長井はマジでこの設定通り動いてる…」[1-60]という帽子の少年の言葉通りだろう(Eアンカーを扱う主体が音那なのはその周辺の会話で明らかだ)。
 Eアンカーを使う目的も、帽子の少年が「てめえが何しようが、どうせもうこの世は終わりなんだよ。 / 下手にいじっても世界の死期を早めるだけだってんだよ。」[2-17]と言う以上、逆説的には世界を救おうという意図があると思われる。もっとも実のところ、彼女自身の言葉でそれが語られたことはまだ一度もない。

 音那が物語に登場するのは、帽子の少年に続いて二番目の登場人物としてである。帽子の少年の前に現われた音那は、少年に悪罵を浴びせられつつも「あたしを嫌おうが悪魔呼ばわりしようが… / やるべき事さえやってくれればそれでいいから。」[1-10]と諦観した様子を見せた。しかしこれはやや奇妙な言葉に聞こえる。音那が少年に望んだ「やるべき事」が具体的に何なのかひどく不明瞭だからだ。(あらためて書くが、このサイトでは「まだ連載第一話で設定が固まっていなかった」等の理由は一切考慮しない)
 仮に音那の望みが読者には省略される形で少年に伝えられていたとしても、彼は簡単には賛同しないだろう。帽子の少年は「もういいよ。 / お前いちいち口出すな。 /…/ 今度は何企んでんだ? / この詐欺師が。」[1-9]と、音那を徹底的に警戒しているからだ。むしろ、この後の展開で少年がそれに触れないのも不自然だろう。
 そこでより自然に考えられるのは、帽子の少年と長井の邂逅そのものが目的だった、あるいは長井と出会って以降の少年の自主的な(何らかの)行動に期待していた、といった事だ。前者は自然だが誰にとってもメリットが見出せないし、実際何も起きていない。後者は(結論を急ぐべきではないが)音那の希望と少年の感情の折衷点として適当とは言えるだろう。
 事実、音那は帽子の少年と長井・博士らの邂逅の後は「観た通りだ。 /…/ …詳しいことは話せない…」[1-29]と当然なすべき説明を放棄している(長井が登場する以前はむしろ説明を加えようとして少年に拒否されてさえいる[1-9]ことを思い出されたい)。これは少年に余計な先入観を与えない/音那自身の意図を悟らせないための行動としてならば納得できるだろう。
 そこで音那が帽子の少年に期待していたのがアンカーの修正だったのではないか、といま言うのはいささか飛躍と決めつけにすぎるだろうか? しかし、この時点で音那の抱えている問題こそまさにアンカーの制御ミスであり、帽子の少年も「音那も何とか修正しようとしてるんだろうけど……」[1-71]と想像している。
 ともあれこの仮定上では、音那が帽子の少年に期待した事(アンカーの修正)は結局果たされなかった。少年自身が「…無理だ。 / もうどうにもならねえよ このキャスト…」と早々に諦めたからだ(むろんそれは彼がEアンカーによる改変に否定的という心情にも由来している)。
 ここに書いた「音那が帽子の少年にアンカーの修正を期待していた」というのはあくまで仮定ではあるが、これは次項以後の材料ともなるので記憶されたい。

失敗

 音那の行動を順に通して見ると奇妙なのは、彼女の態度が急激に変化する時期があることだ。それは単行本で言えばちょうど1巻と2巻の節目で、初期(第1巻)の彼女からはEアンカーの効果にやや及び腰な様子が見て取れる。
 物語冒頭、音那は帽子の少年と長井を引き合わせる事になるが、その前に「彼に会うなら覚悟が要る。 / 彼はきっとお前の想像よりもはるかに歪んでいるはずだ。」[1-8]と警告をしている。事実長井の存在は帽子の少年をひどく驚かせることになるのだが、音那自身も客観的に自分が長井をひどく歪ませたと自覚しているのが、このセリフから理解できる。
 遡って喫茶店で長井を待っていた時、長井の来訪に音那は「ハッ」として振り返っている[1-11]。その後もわずかに眉間にしわを寄せ長井から目をそらす様子があり[1-13]、それからも長井と帽子の少年らの様子を緊張した、あるいは気まずい面持ちで見続けていた(いわゆる漫符の「汗」がその基準になるだろう)[1-16,18]
 明らかに音那はEアンカーで自分がした行為に罪悪感あるいは失敗の後悔(それら類する感情)を抱いている。
 次に音那が帽子の少年の前に姿を見せるのは飛ビ跳ネサセ星人戦のときだが、醜態というべき戦いを「お…音那… / お前なんかじゃやっぱり無理だったんだ…」[1-54]と評され、彼女も「…うまくいってない事は認めるけどこうするしかない、 / 方向は…間違っては…」[1-54]と失敗を認めた末に言葉を濁してさえいる。
 だが、この態度は次の登場時に一変する。

転回

 宇宙人襲来の報、爆破星人との戦いを経て、クッ付カセル星人が警官に拘束された時点で音那は帽子の少年の前に姿を現す。この時の音那は、はじめから帽子の少年に攻撃的だ。
「神様ごっこは楽しかったか?」「…世界を見放しといて言いたい放題か。」[2-5,6]「…あいつや博士だってたぶん元はもっと普通の奴だったんだろ? / てめえが歪めちまったんだ。」「…だからどうした。 / それこそ神様ごっこだ。」[2-7]「…お前もうロクにアンカーを制御できてねえんだろ?(…)」「だから見捨てろって言うのか? お前みたいに。」[2-7]とこのとき二人の会話は、これまでにない非難の応酬になっている。
 変身した長井とそれを司る伊藤純一のいざこざに「…何これ。」と問われた時はさすがにうんざり気味の顔で「…知らない。」と答えているが[2-11]、基本的にはその一連の場面でも、音那は帽子の少年に攻撃的か、あるいは無表情に感情をうかがわせない様子でいる。
 音那にはこの時点で何か心に期するものがあり、それが帽子の少年への態度に反映されたと考えて不自然ではないだろう。それは前述した帽子の少年の(アンカー修正への)期待が果たされなかったことにも由来するかもしれない(あくまで仮定であるが、音那がこの場面で少年の「何もしなかった」態度をたびたび非難しているのも事実である)。
 この時の音那は帽子の少年との会話に終始するが、唯一例外的にうるるに書き換わる前の長い髪の少女に目をやっている[2-12]。その表情は目を大きく見開き、しかし驚きとも集中ともつかない独特なものである。この後、長い髪の少女は帽子の少年の目の前で髪の色を変え(書き換わり)、「音那が見に来たのはあいつだ。」と確信させている[2-18,19]
 これらを考え合わせるなら、帽子の少年の手ぬるさに業を煮やした音那が、新たな手段として髪の長い少女(であれ誰であれ「うるる」に書き換わる人物)を〈利用する〉と決意してこの場に来たとは思えないだろうか。それは長井や博士らを歪ませたのと同様、また一人の一般人を犠牲にする行為である。大のために小を殺す決意が、このとき音那の言葉をことさら攻撃的にしていたのではないか。(うるると音那の関係については別項で後述する)

 次の二回の登場はいずれも幻視の形で、やはりどちらも帽子の少年に意味ありげな視線を送っている。
 はじめはラーメン星人との戦いの後、部屋にいる少年を「見てやがった。」[2-67]という。対して音那のいる場所はスーツ姿の男女が整列したテーブルで、音那は上座に立っており、彼らの中心的存在であることは疑いにくい。周囲の人物が皆気をつけの姿勢でいるのも音那に対する敬意をうかがわせる。これは帽子の少年が仲間からの電話に「お前等もさっさと音那側に行けよ。」と吐き捨てた[2-26]「音那側」の人物達と考えるのが自然であろう。
 帽子の少年が情報を共有する仲間を持つのと同様、音那にもそうしたコネクションがあるのはむしろ当然だろうが、音那のそれは場所といい顔ぶれといい、より強力でかつ音那の主導権がはっきりとしたものに見える。彼女はこの組織を使って何かを成そうとしているのか? あるいは彼女が創る新世界の秩序において、この組織が役目を果たすのだろうか?
 公園での衝撃星人の騒動から姿を消した帽子の少年に、音那は「創る事は壊す事… / ショウ… / 今は手に入れた全てのものを捨て去る覚悟を持て。」と初めて彼女自身の目的(または手段)を暗示している[2-157]。この言葉は何らかの過激な手段を用いようとしているようにも見えるが、定かではない。大意では爆破星人戦後に1コマだけ唐突に挿入された謎めいたテキスト(非テクスト)「(…)創造と破壊は同義(…)状況を人の尺度で(…)なわち現状の否定(…)定であり変化であ(…)破壊とは無の創造(…)」[1-121]と似た内容とも言えるだろう(この文字列が抽象的な演出表現なのか実物を映したもの──例えば音那の手紙など──なのかも検討の余地があるが、現時点では措くべきだろう)。


そばに立つ女

 読者は、しばしば音那の傍らにいるスーツ姿の女性を知っているはずだ。
 音那が帽子の少年の部屋を〈見て〉いた際には、音那に「いかがなさいました?」と声を掛けている[2-68]。また衝撃星人の騒動の後、姿を消した帽子の少年に音那が声をかける場面でも、やはり彼女が音那の傍らにいて、やや遅れる形で振り返っている[2-157](これらの描写からこの人物には透視の能力がないと考えるべきか)。場所は廊下らしき通路で、この人物が単なる移動中でも音那と共にいることをうかがわせる。
引用:ながいけん『第三世界の長井(2)』p.68/157, 小学館, 2013  単純にとらえれば秘書のような音那をサポートする存在と思われるが、実際のところその役割は明らかではないし、推測するに足る情報もない。あえてここで彼女を採り上げるのは、明らかに何らかの意図をもって他のシーンにも執拗に描写されているからである。
 まず1巻冒頭、音那が帽子の少年と長井を引き合わせた際、喫茶店から外に出た3人の横に既に彼女の姿が小さく描かれている[1-16]。それからしばらくの間姿が見えないが、長井が博士に連れ去られるコマではやや離れた場所に立っていた[1-27]のがわかるし、次のページでは「…何これ。」というフキダシで顔が隠されてもいる[1-28]
引用:ながいけん『第三世界の長井(1)』p.16/27/28, 小学館, 2013(強調線「3N」筆者)  その後、飛ビ跳ネサセ星人との戦いが終わった後でも、遠景のコマ(それまで同場面では音那の登場するコマは常に近景だった)で音那とやや距離をおいて立っている姿が確認でき、その後彼女は音那と一緒に去って行くようだ[1-57]。飛ビ跳ネサセ星人戦では背景に一般人(モブキャラクター)の姿がなく、このスーツの女性が単なるモブではない特別な存在だという証拠にもなっている。
引用:ながいけん『第三世界の長井(1)』p.57, 小学館, 2013(強調線「3N」筆者)  クッ付カセル星人との騒動の間にはその姿が見当たらないが、かろうじて音那がその場から消えた次のコマに、それらしき去って行く後ろ姿が見えるだろう[2-16]
引用:ながいけん『第三世界の長井(2)』p.16, 小学館, 2013(強調線「3N」筆者)  以上が同一人物だとすれば、この人物は音那の登場した全ての場面に共に登場していると言える。読者は彼女を重要な人物として記憶しておく必要があるかもしれない。


上書きされた女「うるる」

うるるの理念

 うるるは第2巻中盤から唐突に登場し、その後の事態の主導権を強引に握っていく。しかしその言動には理解しがたいところがあり、特にそれまでに読者に与えられていた情報と矛盾することさえ語る彼女の言葉は、読み手に混乱をもたらすだろう。
 多くの疑問点は横において、一旦うるるの言動の根底にある「考え方」について振り返ってみたい。

 うるるがもつ目的は、帽子の少年や音那のそれと違って非常に明快だ。「うるるはこれから長井ビッグスタープロジェクトの青写真を作らなきゃならないのよっ。」[2-100]「明日から二人で世界最高のビッグスターを目指すわよっ。」[2-101]とうるるは言う。事実、彼女の行動はすべて長井を理想的なヒーローとして社会に売り込むことに向けられていて、これに疑いの余地はない。
 一方でその目的には当然の疑問が二つある。まず第一になぜ長井でなければならないのか? 帽子の少年にも「大体なんで長井なんだよ。 / スターだのなんだのってお前が自分でなればいいじゃねえか、 / その方がよっぽど可能性あんだろ?」[2-119,120]と問われている。その答は「長井はね…… / 特別なのよ… 言ったってわからないだろうけど…」[2-120]というものだった。長井の何が特別だというのか、長くなるがその後の台詞を引用しよう。

「この世界は… / 一つの物語なの。」[2-120]
「そしていつの時代にも世界のどこかに物語の主人公…神の祝福者がいたの。 / 世界はその瞬間その者のためにある、それ以外の人間は背景かせいぜい脇役でしかないのよ。 / そして… / うるるにはわかるの… / 長井こそが今、この世界という物語の主人公なのよっ。 / 現在がどうであろうと未来に無限の可能性を持ってるのよっ。」[2-121]

 横道に逸れるのでこの発言の信ぴょう性については別項に譲る。しかしこの発言からはっきりと分かるのは、長井以外にスターになれる人間はいないとうるるは信じている、その事である。だからこそたびたび長井のスター性の無さにうんざりしながらも、うるるは長井をプロデュースすることに執着しているのだ。

 うるるの目的のもうひとつの疑問は、何のために長井をビッグスターにしようというのか? という点だ。まず彼女に世界を救おうという意志はまったくない。「たとえ世界を喰い潰してでも。」[2-90]と言い、長井以外の人々を「大衆」とよび[2-80,88,131]犠牲が出ることになんら良心の呵責を感じない(「おい、こんなとこで戦ったら下手すりゃ周りに被害も出るぞ?」「悲しい犠牲だけど耐えましょうね長井っ。」[2-126])むしろ犠牲を利用しようとする(「アンチテーゼを暴れさせて街に被害を出させてから、大衆の面前で華麗に倒さなきゃならないのよ。」[2-88])人間性である。うるるが長井を宇宙人/アンチテーゼと戦わせるのはあくまで手段であって目的ではないのだ。
 そして長井が衝撃星人に殺されかけていた時、うるるは必死の形相で言っている。「あたしはっ… / 長井がいなけりゃただの平凡な女なんだっ。」[2-137] つまる所うるるの目標の到達点は長井の英雄化そのものではなく、長井の英雄化によって共にいるうるるが高い地位や尊敬を得る、少なくとも長井の英雄化でうるるが「ただの平凡な女」を脱するところにある。彼女の認識ではうるる自身は〈世界という物語の主人公〉にはなれないのだから、主人公たる長井を利用して上を目指すのは(道徳的にはともかく)ごく自然な考え方であろう。
 事実うるるの長井に対する態度は、媚びたふりで操縦しようとしているか傲慢に命令しているかのどちらかで、長井の頓狂な言動にたびたび吹き出して笑いをこらえたり[2-78,2-84,2-133]内心ではコンビとして最低限のリスペクトも持っていないことが見え隠れする。また火山噴火星人戦後には「なんで肝心のあたしがほっとかれてんだよ。」[2-99]と他の(色々思う所のあるはずの場面で)何より自分を優先させるような態度も見せている。

上書き

 うるるはもう一つの点で、作品世界に大きな変化を起こしている。
 うるると博士の(長井に対する)主導権争いの中で、長井がうるるに傾いた時の事である。「いいわねっ うるるの言う通りにすれば長井はスーパースターになれるのよっ。 / うるるを信じなさーい。」[2-86]「ジャア信じようかな。」[2-87] そう長井が言った瞬間から、以後ずっと長井の顔が変化している。

引用:ながいけん『第三世界の長井(2)』p.86, 小学館, 2013 引用:ながいけん『第三世界の長井(2)』p.87, 小学館, 2013
 目は二重まぶたの吊り目になり、鼻のラインがすっきりとし、口元の皺が描かれず、顔周辺の陰影線も消え去った(以後、代わりにスクリーントーンで陰影を表現する事が増えている)。比較すれば全体にスタイリッシュなデザインに変化したと言えるだろう。
 長井がうるるの言いなりになった時から、その姿もうるるの望む(あくまで比較的にだが)形態に変化しているのである。これがうるるの能力あるいは影響力なのは疑いがない。

 うるる自身に(帽子の少年や音那のような)超常の能力があると言えるのか? ここで断言はできないが、たとえば博士の警報を聞いて「間違いない、この感じ…」[2-124]と宇宙人の襲来を警報とは別に感覚的に理解しているのは事実である。
 もっとも、その相手が衝撃星人である事は博士の言葉を聞くまで知り得ず[2-125,126]、その点では博士より低い能力(技術)しか持っていないと言えるだろう。他にも金銭に関しては「今700万で、近い内に一億超は用意できるけど全然よ… /…/ うるるは小さいけど会社持ってるしコネもそれなりにね、」[2-115]と少なくとも現実的な範囲でしか干渉できず、例えばアンカーを打って大金を手に入れるような大きな能力が無い事も分かっている。
 ちなみにそこでは自分の予算を「きっと長井に関わるための流れね…」[2-115]と奇妙な形で評価しているのだが、これは既に引用した通りうるるが世界を「物語」、長井を「主人公」と定義していることを前提にすればおかしくはない。脇役であるうるるは、物語のプロット上で主人公に関わる一要因として大金を「持たされている」と認識しているのだ。
 うるるの世界認識は基本的にこの「物語」性に沿っていて、帽子の少年らの客観的な(と思われる)それとは異なっている。帽子の少年がアンカーを打って衝突を回避している事にも、「…アンカー? / 何?」[2-131]と意味を理解できずにいて、この食い違いは訂正されず、うるるにとって帽子の少年は訳の分からない人物のままである。

 話を戻すと長井の顔が変化する直前にも、うるるは奇妙な事を口走っている。
 「こういうのはどう? / 実は長井の父親はこれまでたった一人で世界を守ってきた偉大なヒーローで… / 長井は彼に憧れて彼の意志を継ぐ為に最高のヒーローを目指すのっ。」[2-86] むろんそれはうるるが事実と無関係に決めつけた事で、長井にまで「羽田のロビーで何か不安げに笑ってるだけの人ダゼ。」[2-86]と言われているのだが、「事実はどうでもいいのバカッ。長井の過去なんてもん どうせ誰も調べようともしないわっ。」[2-86]とうるるは言い切っている。
 つまり、うるるは長井とその周辺の「物語」を修正しようとしているのだ。長井の顔がそうなったように、スタイリッシュで万人受けのする方向に。これは単純な見方ではねつ造癖でしかないが、実際に長井の顔が書き換わっている以上、事実物語の改編がある程度は彼女には可能なのだろう(自身がそれをどの程度理解しているのかは別として)。
 他にもうるるは宇宙人という幼稚さのある表現を、アンチテーゼ(「今ある世界を否定する力が受肉し顕在化したもの達」[2-83])という説得力のありそうなものに言い換えているし(宇宙人は関羽・オタ丸にさえ「今どき宇宙人はないよな… / 異世界よりよっぽどない。」「(…)敵が宇宙人とか頭悪すぎだろ。」と酷評されていた[1-75])、涙を流す演技までして長井の戦いにロマンチシズムを加えようとしている(「やめてっ。 / いけないわ、戦いなんてよくないわっ。 /…/ なぜあなた一人だけが命をかけて戦わなくてはいけないの?」[2-84]「そうじゃないでしょ。 / だから… / 戦う事に疑問を感じながらもそれでもなお戦わなければならない、重い運命が欲しいって言ってるのっ。」[2-85])。

 これらのうるるの主張あるいは書き換えが成功したのかは良く分からない。なぜならそれを観測している相手がよりによって設定の差異を認識できてしまう帽子の少年で、読者は少年の視点からしか見ることができないからだ。
 いずれにせよ長井の顔の書き換えが起こったのは事実であり、その原因がうるるにあるのも確かだ。なぜうるるがそのような役割をもつのかは、うるるの登場にさかのぼって考える必要があるだろう。

変身

 最初の「うるる」の登場は路上に縛られ倒れているというものだった[2-76]
 この時目を開いたうるるにオタ丸は「え? 生きてる? / あれ? 冷たかったのに。」[2-77]と驚いた様子でいる。その後も「実際に死体が起き上がって逃げてっちゃったんだっての。」[2-100]とより具体的に言っている通り、これは思い込みの類ではなく(もとよりオタ丸は現実的で判断力のあるキャラクターである)事実死体として登場し、蘇生──その表現に語弊があるなら誕生──したのだろう。
 こうした形での「書き換え」は見える範疇では他に類がない。長井や博士の最初の書き換えがこうでなかったとは言い切れないが、オタ丸らの例のように騒ぎにならなかったようではある。唯一、「虫どもめえ。」の少年[2-131]だけが(その時制御しきれないアンカーを打っていた)帽子の少年に「駄目だ… / もうみんなおかしくなってっちゃう。」[2-132]と言われており、その場で瞬時に書き換わったように見える。この事を基準にすれば、うるるの死を経由した変化は特異なものであると考えられるだろう。実際、それ以前に髪の色の変化[2-18]という書き換えが既に起こっており、その時点では彼女の思考に変化がなかった事とも考え合わせて、「うるる」という存在の出現には段階的な経緯があると思われる。

 うるるがその姿で登場する以前、〈長い髪の女〉[2-69]の最初の登場は第一話の終わり、UFOの登場時である。この時点では単なるモブキャラクター風の女子高生の二人連れとして登場し、UFOを目撃した連れの少女に訳も分からず肩を引かれている[1-33]
 この二人は続く第二話冒頭にも登場し、長井のクラスメート(か、少なくとも知人)だと明らかになっている[1-38]。この時はさらに一人加わり、活発で口数が多い少女と、やや背が高く冷静な言動の目立つ少女、そして〈長い髪の女〉の三人組という形になっている。この時には彼女は一言も発していない。
 〈長い髪の女〉が意味のある言葉を発するのは次の登場時、ヘリ墜落の事故現場を見物に来た張飛(新井)と三人組が連れ立って現われた時である[1-135]。この時「…長井君も来てたんだ。 /…/ え? あ… / いや、ついさっき新井君と会って… / うちの生徒結構見に来てるし…」と張飛(新井)に気のある様子と、長井という邪魔者の登場に期待外れの表情を見せている。たしかに後にうるるが言う通り「ただの平凡な女」[2-137]だったかもしれない。

 これよりクッ付カセル星人の登場と拘禁、音那の登場を経て「髪の色が青く変わる」書き換えが行なわれる。まず変身後の長井と伊藤純一の騒動があり、「…何あれ。」と訝しむ〈長い髪の女〉を音那が不思議な表情で見ている[2-12]。音那が姿を消した後、少女は奇妙な感覚に気付く。「んー なんか… / なんだろう。 /…/ 思いだせなくて…なんだっけ。 / あたし何かやらなきゃいけない事があった様な気が… /…/ でも急にフッと空気が変わる瞬間があるんだよね。 / そんな緊張の糸が緩む様な… / 今そんな感じがしてて…」[2-17,18] 後半の言葉は意味不明に近いが、この瞬間彼女の髪が変化している(色もそうだが、形質も微妙に変化している)ことを考えれば、「書き換え」を示していると見るべきだろう。
 帽子の少年は「そういえばお前… / ここんとこ不自然なくらいよく会うな。」[2-18]と険しい表情で言う。別の言葉で言えば(彼女が)「もうこの物語に組みこまれちまってる…」[2-30]という事であろう。
 その後少年は「音那が見に来たのはあいつだ。」[2-19]とも考えている。これは解釈の範囲の広い言葉だ。〈長い髪の女〉を「見に来」ることが何を意味するのか、音那の目的が欠けている。まず音那は「書き換え」の瞬間を見たかったわけではないだろう。その時には音那はすでに立ち去った後だからだ。では、(この前後に現われる)クッ付カセル星人よりも重要な目標として彼女を「見に来た」のはなぜか。
 これより少し前の音那の登場時、一陣の不自然な風が吹き帽子の少年は「…なんだ? ただのジェノテクストじゃねえ。こんな半端なのは…」[1-158]と訝しんでいる。「ジェノテクスト」(本来は記号学用語)をどう解釈すべきか詳しくはまた別項を設ける必要があるだろうが、この文脈では広くジェノテクスト──深層的かつ無限に起こる非主体なテクストの生産──では「ない」以上、逆説的には(表層的に起こる)アンカーの発現と受け取って的外れでもないだろうか。他の音那の登場場面でこのような現象が起きていないことを考えれば、このシーンでは音那がアンカーに何らかの介入/接触を行なっていると思しい。

 ここでは音那のアンカーへの干渉があったという仮定を前提とするが、であれば(書き換え前の〈長い髪の女〉を音那が意味ありげに見ている[2-12]ことから)その意図がうるるの書き換えにあったのは明らかである。
 それが誰かを「うるる」という存在に書き換える事か、又は既に決まっているうるるの役割を上書きする事だったのかは、この際あまり重要ではない。音那に意図があるとすればそれは現時点でうるるが果たしている役割に他ならないからだ。
 すなわちこの仮定からは、うるるの行なっている修正行為に音那の意図が介在していると結論できるのである。いわばうるるは物語の自己修復装置として音那に位置づけられ、うるる自身の判断で正しい方向へと物語を修正する。うるるの人格は手段を選ばないエゴイストであり客観的な世界認識もできてはいないが、それでも事実うるるは帽子の少年が「…無理だ。 / もうどうにもならねえよこのキャスト…」とさじを投げた状況を変化させたし、うるるのプランがもし実を結べばそれはヒーローの勝利であり世界の救済になりうるのだ。
 うるるはこう言っている。「いずれ誰もが長井を崇めるようになるのよっ。 / うるるが必ずそうさせてみせるわっ。 / うるるはその為に存在してるんだからっ。」[2-155]と。この存在意義こそ音那が与えたものではなかっただろうか。